ある日の夜、私が居間でテレビを見ていると、電話が一本かかってきました。
「はい?」
「おお、久しぶり。俺、Yだけどさ。」
Yとは高校時代の友人の一人で、違う大学に進学してからも何度か会ってはいたのですが、もう4年前ほどから音信普通になっていて、風の噂で大学を退学したということは聞いていました。
「ああ、久しぶりだな。…で、どうした?」
「なあ、お前今何してる?」
「ん? 居間でテレビを見てるけど?」
「いや、そうじゃなくてさ。就職とかしたのか?」
…このあたりで何か嫌な予感はしていました。大体長年連絡すら取っていない友人に突然電話がかかってくるというのはろくなことが無いものです。キャッチセールスか、宗教の誘いか、それとも訃報か。どちらにせよ、私の頭は警戒モードに入りました。そして、Yが次に発した言葉は
「…なあ、俺と一緒にウハウハにならないか?」
というものでした。…おいおい、よりによってねずみ講の誘いですか。まあマルチ商法かマルチまがい商法かもしれないが、どれでも一緒です。
まさかとは思っていましたが、Yは思いっきりベタなお約束をかましてくれました。今時ねずみ講に引っかかる人も珍しければ、勧誘の言葉が「ウハウハにならないか」と来た。ここまでベタだとかえってYに同情してしまいます。
…ですが、私はYに対してこういったことはやめろとかいった説得は一切する気はありません。こういった手合いの輩はいくら説得したって聞きっこないことは分かりきってますし、変に関わって私の足を引きずりこまれてしまうのでは本末転倒です。私は携帯の番号を教えたり向こうが自分の携帯の番号を教えようとするのを拒んだり、接触を最小限に避けて電話を切りました。そしてすぐにYとも友達だった私の親友に電話をかけ、Yがそういう電話を掛けてくる可能性があるから注意するように伝えました。これが、私なりのYに対する友情の示し方です。
これからのYが数年間貧乏暮らしを強いられるか、はたまた二度と日の目を浴びることの無い人生を送るのかは私の知るところではありませんが、一度痛い目にあわないと目が覚めない以上、少しでも傷口が小さい状態で痛い目にあえるように私は祈っています。